近年、予兆が分かりにくい突発的な暴力事件や衝動的な事故が注目を集める。被害や動機が一見ランダムに見えるため、社会は「突発」とラベルを貼りがちだが、当事者の生活史や周囲の状況を掘り下げると、慢性的なストレスや無理解が累積しているケースが少なくない。突発性は表層であり、その背景には日常的な負荷の蓄積が横たわっている。

雇用の不安定化、長時間労働、孤立化する生活、支援へのアクセス難——これらが個人の心理的余裕を削る。加えてSNSやメディアによる比較文化は自己評価を不安定にし、他者への不信や被害感情を増幅させる。教育や職場での失敗や排除経験が適切に処理されないまま放置されると、感情の調整機能が損なわれ、些細なきっかけで行動が暴走するリスクが高まる。

現行の対応は個別の「犯人像」や「治安対策」に偏りやすい。発見と介入の仕組みが弱く、申請型の支援は孤立した人に届きにくい。また、学校や職場での早期支援・仲裁体制が不十分で、予兆を見逃すことが多い。報道も単純な病理化や人格攻撃に終始すると、社会的要因の検討が後回しになる。

予防には「つながり」と「伴走」を重視する政策が必要だ。地域・企業・教育機関が連携して異変を早期に察知するネットワークを作り、孤立者に寄り添う伴走型支援を拡充する。学校や職場では感情調整や対人スキルを育む教育を導入し、短期的な対処ではなく長期的な心理的レジリエンスの強化を目指す。事件を個人の「異常」に還元せず、日常の負荷を軽減する社会投資こそが再発防止の要である。